「長生きリスク」をどう考える?年金の繰り下げ受給の実際
「退職後の年金給付」気になりますよね。公的年金には、受給時期を遅らせることによってその金額を増やす「繰り下げ制度」があります。具体的には需給を1ヶ月遅らせるごとに受給額は0.7%の割合で増加していき、本来65歳から受給するはずのところを、最大70歳受給開始にまで繰り下げすることが可能です。
繰り下げによって増えた受給額は終身で続きます。ただ、繰り下げている間は無年金の状態になるため、70歳まで繰り下げた場合は受取額が横並びになるのが82歳まで生きた場合。単純に計算をするとそれ以降は長生きをすれば「お得」になるということですね。
しかし受取額そのままではなく、実際の税金や保険料を差し引いた手取りの額となるとまた話は変わってきます。
■元の受給額が200万円のケース
まずは65歳から受け取り始め200万円の額面で受給する人のケースで考えてみましょう。最初に考えるのは200万円の額面から所得税、住民税、国民健康保険、介護保険料を差し引いた手取りの金額です。200万円の場合、実際の手取りは185万円になると言われています。
次に、これを5年(60ヶ月)繰り下げた額面について考えてみましょう。この場合は元の金額から42%(0.7×60)増加した284万円が額面上の金額となります。そして、ここからもろもろの差し引きを加味した実際の受取額が244万円です。
ここで、手取りでの増加割合を比較してみましょう。185万円から244万円の場合の増加率は約32%。こうしてみると額面での増加割合が42%であるのに対して手取りの増加は控えめになることが分かります。この場合、82歳を過ぎても総額で得をすることはできないのです。
■元の受給額が100万円のケース
受給額が先程の半分になった場合はどうでしょう。額面が100万の場合の手取りは約92万円。そして5年分繰り下げた場合の額面は142万、その手取りが約132万円です。
この場合の手取りの増加率はなんと約43%。このケースにおいては、額面での増加率を手取りの増加率が上回る結果となっているのです。
これらの結果をみると、元々の受給額が少ない程、「繰り下げ」による恩恵は大きくなるということが言えるでしょう。
■加給年金について
厚生年金に20年以上加入している場合、年下の妻がいるとその妻が65歳になるまで年収39万円の年金が上乗せされる加給年金という仕組みがあります。気を付けたいポイントは、厚生年金の繰り下げを利用すると、この加給年金が貰えなくなってしまうことです。
ならば加給年金は貰えないの?と思いますよね。それは違います。実はこの問題、基礎年金部分だけを繰り下げるという選択をすることによって回避が可能なのです。その場合、加給年金だけが残りますので、むしろ無年金で暮らさなければいけない期間が楽になるともいえます。
■住民税にも注意
年金収入が比較的少ない人は、住民税が非課税になります。さらに、自治体によっては介護保険料が減免になるなどの負担を軽減する制度の対象になることもあるのです。
具体的な住民税非課税のラインについては下記の通りです。
生活保護基準 単身者 扶養配偶者有
1級地 155万円以下 211万円以下
2級地 151.5万円以下 201.9万円以下
3級地 148万円以下 192.8万円以下
※1級地に該当するのは、東京区部や、政令指定都市の一部など
問題なのが、年金の繰り下げによって受給額が上記の金額を上回ってしまった場合、この住民税非課税の制度の範囲から外れてしまうということなのです。年金の繰り下げ受給を検討する際は、こういった要素もしっかりと加味した上でどれだけ繰り下げるかを決めるといいかもしれません。
年金の繰り下げ受給は、受給額が増える魅力的な制度です。いろいろな要素を加味すると、微妙な損得がありますのでしっかりチェックしておきましょう。ただ、年金は本来長生きの「コストやリスク」に備えるもの。65歳以降でも気力、体力が十分な人は働いて収入を得ることで繰り下げをすれば、働けない期間の年金額を増やすことができます。リタイヤと年金受給のタイミングは「トータルでの人生の豊かさ」をぜひ考えてみてください。